転生した先は地獄でした――三百年続く辺境伯家の防衛戦線
むーとんけいとん
第1章『呪いと祝福』
第1話 俺の転生は、こうして狂った
___あぁ.....
どれだけ足掻いて力を得ても
現実はただ冷たく残酷で
____心から大切だった宝物も
この震えた掌からはひとつ
またひとつと
音もなく溢れ落ちていく
どうにもならない絶望に
__笑って
__堪えて
それでも、抗うように
笑顔を浮かべて
そうして、また
____深淵にひとり堕ちていく。
◆
俺は30代の何処にでもいる
サラリーマンだ。
いや、だった……が正しい。
今はもう辞めている。
____あの日、仕事中に背中側から激痛が走った。
あまりの痛みに『あ、むりだ』ってなった所までは凄く覚えている。
んで、目覚めたらこの辺で1番大きな大学病院だった。そして、告げられたのは余命3ヶ月。
まぁ何処にでもあるようで
案外ないような、そんな話だ。
気づいた時には、すでに手遅れ。
所謂サイレントキラー。
既にどうしようもない程、進行していた膵臓癌で入院だとさ。
俺の人生を畳み掛けるかの如く起こった出来事に、自分もうまく消化できていない。
まるで他人事のような_____
サラリーマン生活は別にブラック企業だとか、そうこともなかった。
至って普通。
どこにでもいる社会人な生活を送っていたと思う。
なんなら病気とは全く無縁の生活をしていたんだ。
___この日までは。
____ただ、運が悪かった。
ただ、それだけ
___とはいえだ。
"余命3ヶ月"
そんなの言われてさ『はい分かりました』とかそんな納得は出来るわけもないのよ。
あーやだやだ。
何かで気を紛らわせんと、ふとした拍子に怖くなってやってられん。
隙間時間は死ぬまで無限にあるからな。最近なんかはネット小説を読む事が趣味なんだ。
ジャンルはよくある転生系。
「ありえねーよ」と考えながらも。
これはこれでまた良いものなのだ。
______あ
自分が好きな小説が更新されているのを見つけた。
_____スマホを手に取って......
それはいきなりだった
これまでに経験したことのない激痛が身体に走りうずくまる。
あまりの痛みで息が出来ない。
また、意識が遠のいていく......
____ただ。
前と違うのは身体から何か大切なものが、一緒に抜け落ちるような____
そんな奇妙な感覚があった。
自分の中で冷静な部分が
『あぁ....コレは駄目』と悟る。
_____せめて更新された部分は読みたかったな
そんな事を最後に
心の中で嘆いた。
あっという間に
視界が暗くなる。
あぁ寒い。
____暗く寂しい
しんえんのなかに
何処までも
何処までも
堕ちていって____
◆
何処からか
何かが
拾い上げられる
感覚と共に。
"世界が反転し真っ白になった"
___いや....
真っ暗から真っ白までの感覚の
スパンおかしい。
感覚的には一瞬やぞ。
あと、物理的に何かに身体が持ち上げられた。
いくら病人の体とはいえ、成人男性の体を、なんの抵抗感もなく持ち上げられるのは基本無理だ。
一体何が起きた?
視界が異常に眩しくて。
まともに、何も見えないのだが
うっすらそこに見えたのは
所謂イケオジ。
医者じゃねーのかよ!!!!!!!
…って、誰!?!?
ほんと誰だよ!!!
声を上げようにも、上手く発声できない。というか出せてもギャーギャーっと甲高い声しか出せない。
それどころか、薄っすらと見える俺の手足、短いどころか..........
嘘やろ?あれか?
転生した的なやつか?
死んで生まれ変わった的な?
ばかたれ!!!
ファンタジーは本だけにしとけ!!
こんな感じで始まるもんなん?
いや経験談とか当然ないから
知らんけれども。
頭の中でパニックを起こしていると
だんだん睡魔が襲ってきた。
耐え難い、睡魔というよりもはや気絶のような_____
いや....そりゃ赤ん坊やし
眠たなるわな....
っと最後に心の中で呟き_____
今度は寒くなかった。
暖かい腕に包まれる感覚
そのまま微睡の中へ。
意識を落とす。
◆
あのイケオジに抱き上げられた衝撃から約8年ほど経つが、この間は
ずっと驚きの連続だった。
そもそもここは俺がいた地球ではない。それに気づいたきっかけは腐るほどあるが……
あえて言うならば月.......
此処では月を
夜空に大きく2つある時点でバカでも地球では無いと気づく。
あと驚いたのことは..........
.......そうだな
俺が転生した家はヴァンガルド家。
所謂、貴族であった。
それも辺境伯という、実質侯爵と同等位の上級貴族だ。
やったぜ!!!
左団扇な人生ゲット!!
ありがちな奴!!
ありがとうございますぅ!!!
____とか、なんとか
そんときは思ったわけなんよ。
でも、現実は辛い。
5歳ごろからだろう。
この頃から謎に強制される訓練が
尋常ではなかった。
自由な時間はほぼ無し。
早朝は明るくなる頃から走り込みが始まる。
尚、これは終わりなき
無限の耐久レース。
倒れるまで走らされるのだ。
てか、倒れると更に容赦がなくなる。嫌でも走るしか無いのだ。
.......吐いた回数??
そんなもん親の顔を見た数よりも
圧倒的に多いわ。
いくらなんでもあんまりで。
頭がイカれた教育方針。
幸い身体が異常に頑丈で
馬鹿みたいに体力があったから耐えれてしまった……
"耐えれてしまったのだ"
日が登りはじめてからは
剣術、槍術、体術、魔法ect...
兎にも角にも戦闘行為に直結する
訓練があまりにも多くて辟易した。
毎日、余す所なくしっかりズタボロになる日々で、お父様が居た日にはズタボロ超えてボコボコの血だるまだ。
なんど虐待を疑った事か。
こんなのが毎日だ。
こんなもの、当然無理が生じるに
決まっているのだが。
やはり"魔法"
"魔法は全てを解決する"
治癒魔法
しっかり元気だ
ご飯が美味い。
いや、治癒魔法のせいで美味しく無いです。治癒魔法いらないです。
____いや、いるけども!!!!
全然元気になりたくないです!!!
もう倒れさせてくれ!!!!!!!
もう勘弁してください。
俺は5歳なんですよぉ~!!!
6歳ですよぉ~!!
7歳ですよ......
8歳です。
っと歳を重ねる都度3つ。
そして現在に至るわけだが。
10万回はこんな事を心から願ったと思う。でも叶った事は無論ゼロだ。
素晴らしきかな異世界転生。
都合がいい願いを叶える
神はいないんだ。
てか、そもそもなぁ。
逃げたい!とかそのへんの
言葉.........
要はマイナス感情をね。
なぜか人がいる所では口に出すことができねぇーのよ。
言おうとしても、なんか嫌な予感がして身体が固まるんだわ。
俺の身体なのに
淡々と訓練しやがって!!!
なんかあかん魔法かけられてるだろ!!
....クソが!!!!
あと俺は貴族だろ。
貴族教育として教養はええんか?
帝王学とかその辺は??
1対9の割合で勉学がなさすぎる。
"睡眠、飯、排泄"
それ以外は、ほぼ訓練三昧だ。
脳筋貴族がふざけやがって。
時代は文官ですよ。
まぁそれでも魔法の訓練は比較的楽しかった。初めて見た魔法には感動したものだ。
我が家のメイドが何もないところから水を出したり、風を操り洗濯物を乾かす。
そんな光景を初めて見て魔法を知った日以後には、毎日お母様に魔法を見せてと甘えたものだった。
無論5歳程度の話だが。
....まぁ寝っ転がるしか出来ることがない乳幼児ごろ、自分の身体に何か"よくわからないモノ"が流れている事は感じ取っていた。
それに気づいて以来、延々と回したり出したり戻したりと遊んでたから。何かはあるんだろうなぁ....
とはわかってはいたんだけども。
.....だだなぁ
魔法の本格的な訓練が始まってからは魔法へのワクワク感は死んだ。
とにかく耐える事に必死だった。
火炎や石礫といったシンプル死ねる魔法が四方八方から飛んできては避け。迎撃しては撃ち落とす。
時には敢えて腕や足を火傷をした状態から魔法を制御する訓練を行っていたりする。
俺が知る有名な貴族の台詞には
『貴族たる者どんな時でも余裕を持って優雅たれ。』
とかいった奴がいたな。
ばかタレ。
優雅とは正反対に位置しとるわ!!
どう考えても頭がおかしい訓練が
多すぎる。
_____っとまぁ文句をたらたら吐き出した訳だが。こんな幼少期から虐待じみた訓練をするには当然それなりの理由があるわけで
身をもって「恐怖」を思い知った
◆
_____走馬灯のように
過去が頭をよぎっていく。
過去の記憶なんか正直どうでもいい。
____あぁ
ほんとに。
たった今、そんな事どうでも良くなった。
この、どこまでも惨く酷い光景よ。
夢なら覚めてくれ。
この世界は俺にとって教育方針以外は最高だった。
魔法とか堪らんよ。
そりゃテンアゲパーリーー!!よ
冒険だとか、なんかもぅ
すんごい色々ファンタジー!!
ってのがあるんだろうなーって........心から楽しみで
____そう言う風に思ってた。
すべて吹き飛んだ
糞食らえだ。
やたら虐待じみた訓練をさせられてんなーと思ってたけど。
ようやく理由が理解できた。
これは対症療法だ。
日々の辛い訓練で心体ともに耐久性を高めて主に心を強くする為だ。
俺が見ているこれは.....
なんと表現すべきだろうか
あえて言うなら
「地獄」だろう。
視界に広がる荒れた大地。
その先のかなり奥には枯れたように見える森が視界の端から端まで広範囲に広がっているように見える。
荒れた大地には約500人はいるであろうヴァンガルド家の騎士たちが固まっている。
そして、彼等は一斉の掛け声の後
とんでもなく大きな魔法を放った。
集団で一斉に放つ魔法はものすごい迫力である。その魔法は一つの火炎の形に纏まって行く。それは最早火炎というより太陽がそこにあるかのようで......
その太陽は目にも止まらぬ勢いで
「ナニカ」に直撃した。
直撃した先に残るのはドス黒いタールの様な粘度質の液体が燃える光景だ。
___あれは触手か?
人間の手足の様に見える残骸が爆散している。まるでスプラッターホラーの様な有様だ。
ただ、あの太陽が吹き飛ばしたのは
「ナニカ」の軍勢の一部のみのようだ。
荒れた大地には、まだ無数の「ナニカ」が這い蹲ったり飛び跳ねたりしながら此方に進軍して来ているのが見て取れる。
中には隣の「ナニカ」から分裂したり、無数の口から黒い液体を撒き散らしながら爆散して散らばる残骸を捕食したりしている。
捕食した側からどんどん人間の腕や足が生え、歪な顔が生成されていく。
.....あれは
人を真似ているのだろうか。
少なくとも自然でみるような光景では絶対にない。
あれは生き物には到底思えない。
ぐちゃぐちゃにペーストにした人間の肉塊を。まるでオモチャのように捏ねて形作ったかのような。そんな有様だ。
悍ましく。
魂を酷く冒涜しているかのような。
倫理観のかけらもない
その其れだ。
あれは、少なくとも生物ではない。
そんな枠に入れていいようなものではない。
___あぁ気持ちが悪い。
後から来た軍勢のバケモノ共は
パッと見の範囲で約1000体程度はいるであろうか。
ここは異世界。
生物環境が前世の地球とはまるで異なる。当然、書籍等からはモンスターなるものがこの世には存在する事は事前に学んでいた。
ただその姿は前世で想像されていた
モンスターの形状と大体同じで、ここでも図鑑は存在している。
ある程度の種類のモンスターの造形は把握しているつもりだ。
その上で言う。
____あんなバケモノ
絶対にいなかったのだ。
あれは一体なんだ。
あのような強烈なバケモノなど
忘れるわけがない。
___と言うことはだ。
意図して隠していたのだ
あのバケモノ共を。
ふとその時。
俺の視界の隅で、ヴァンガルド家の兵の何人かが悲鳴を上げたのが聞こえた。
すぐに其方へ振り向くと。
ナニカが人間の腕と手のような異常に長いものを振り回していた。
それを触手のように動かして脚を絡め取ったのだろう。
絡みつかれた触手から必死に振り解き逃げようとするヴァンガルドの兵士が見えた。
だが粘液に覆われたその“腕”は強引に兵士の体を引き寄せる。
兵士の鎧が嫌な音を立てて引き剥がされ、肌が触手に直接触れた瞬間、まるで溶かされるように肉が崩れていき、その部分をナニカが無理矢理引きちぎる。
悲鳴は甲高く、耳を突き刺すように戦場に響く。こんなもの見ていられないはずなのに、目が離せない。
バケモノの胴体にある巨大な口に無理やり押し込まれたのか、兵の下半身がずるりと呑み込まれていった。
次の瞬間にはバキリバキリっと肉と骨を噛み砕くような嫌な音が兵士の絶叫と共に響き渡る。
血と臓器が地面に飛び散り、ドロッとした黒い液体と交じり合って奇妙な色を作っている。
闘争の果てに死ぬのは俺にも理解できる。
____だけど、こんなもの....‼︎
俺が知る人間の死に方ではない‼︎
___おぞましい光景に息が詰まる。
胸が苦しく息が出来ない。
脳が現実を処理しきれていない。
生命を冒涜しているかの様な造形。
通常の進化の過程では絶対あり得ない様な........
____物凄い不快感。
明らかに出てくる世界観を間違っている。サイレントヒルとかそっち系だ。なんならコズミックホラーに出て来そうなそれ。
本能的な嫌悪感に体の隅々から嫌な汗が滴り落ちる。
_____ふざけんなよ
いったい"何"と戦っているんだ。
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