概要
あり得ないはずの思い出話と覚えのない怪談を語られ、夏と夜の果てに、彼は選択する。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!夜毎、思い出を浸食する怪異は禍々しくも、いじらしく、懐かしく……
人格を表す"personal"の語源は、persona"仮面"だったらしい。
この怪異の特性はまさにそれだ。
何の曰くも所以もなく訪れる顔のない怪異の男(男?)は、青年が眠りにつく前、あるときは彼の兄、または先輩、父、叔父としてありもしない怪談兼思い出話を語る。
禍々しい千夜一夜物語は徐々に過去と現実を侵食し、実在の場所や人物にすらもふとしたとき「あの家で同じものを見たのではないか」「あの怪談に出てきた傷が腹にあるのではないか」と疑念を抱いてしまう。
想像もしなかった選択肢を浮かべる度に日常の安全圏が次々削られていくのはホラーの醍醐味だ。
特にこれは関係性を騙る怪異なので、着々と自分を現…続きを読む - ★★★ Excellent!!!記憶を揺さぶる「それ」の語り
「わたし」とはなんだろうか。
記録であり、記憶であるといえば、極論過ぎるだろうか。
そして、「記録」のほうは、なにか必要がないかぎりは参照しない。
相続でもなければ自分の戸籍謄本など取り寄せないし(そして思っているよりも高い頻度で、自分のしらない兄弟姉妹の存在を発見したりする)なにか思い立つことでもなければ卒業アルバムだって見返さない。
となれば、「わたし」を構成するものは、「記憶」であると言っても差し支えないだろう。
わたしに親族や友人がいるとして、その親族や友人が、昨日とおなじ人物である、もしくは、昨日も存在していたという保証は、わたしの記憶のなかにある。
作中登場の怪異は、主人公…続きを読む - ★★★ Excellent!!!しっとりとしみ込むような本物の怪異譚。
そう滅多にお目にかかれない本物の和風ホラーです。
出会えたことを神様仏様あとは怪異様に感謝したい。
青年の夢に「彼」は出てくる。
しかしその「彼」は現実と夢のあわいにある。
生々しい空気感に腹が冷えたのは何度だろう。
味までしそうな手触りの文体が描くのは、「記憶」という水にぼたりと落ちた墨が滲むような歪んだ過去。
いや、その夢語りこそが青年の過去を歪めている。
そして私たちは夢語りが進むごとに、青年のことを知ってゆくような気になってゆくが、それこそが誤りなのだ。
この夢は紛い物である。
いくら読み進んで青年のことをじりじりと知っていっているような気がしても、それは「彼」が語る階層の…続きを読む