大航海時代で成り上がり!

星野林

第1話 転生の始まりはイングランドにて

 皆さんは18世紀と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。


 日本だと18世紀と聞くと徳川幕府中期に当たり、戦国時代が1600年……正確には1615年に終わりを迎えた17世紀から約1世紀……徳川幕府は中期と呼ばれる比較的安定した時代が過ぎているので8代将軍徳川吉宗の時代を思い浮かべれば良いでしょう。


 日本だと鎖国真っ只中で動きがあまり無いため、日本人的には転生したいという人物がなかなか居ない時代でもあります。


 ただし海外だとどうなっているかというと、アメリカ大陸発見から約2世紀……航海、造船技術の発展、南北アメリカ大陸での植民地の拡大……そう世はまさに大航海時代である。


 主に大西洋三角貿易と呼ばれる貿易が主流となり、ヨーロッパでは武器や弾薬、織物等の工業製品を積荷とし、それをアフリカに持って行く。


 積荷と奴隷を交換してアフリカからカリブ海を目指し、カリブ海周辺で取れる茶葉や砂糖を積載してヨーロッパに持ち帰る。


 関係性が三角形になっているので三角貿易と呼ばれているのである。


 神様は長々と目の前の魂に説明を続ける。


『で、君には努力次第であらゆる才能が開花出来る能力を与えよう! 特別だぞ』


 と言われたが、魂はそれでは現代から生活水準が大幅に下がる世界で生きていくのは辛いですと泣き言を言い始める。


『仕方がないな〜じゃあ宝石から人を産み出す能力を与えよう』


 とこれまたわけの分からない能力を魂は受け取った。


『それと長期航海を成功させたらチートを1回の航海につき1つ与えることにしよう。頑張ればチート沢山持てるようになるかもね!』


『じゃあ出生をダイスで決めていくぞ……さあ100面ダイスじゃ、振ってみろ』


 そう言われたが、神様がおもむろに紙を取り出すとそれを広げた。


【出生ランキング】

 1〜10 スラム生まれ

 11〜29 植民地生まれ

 30〜69 一般人

 70〜79 医者等の富裕層

 80〜89 資本家

 90〜99 貴族

 100  王族


 そんな事が書かれていたので、魂はなるべく良い数字が当たることを願ってサイコロを振る……するとギリギリ50の目を出すことが出来た。


『おお、おめでとう。一般的な家庭に産まれることができそうだね』


 魂はなすがままにサイコロを振らされ、転生先が決められる。


『ではこんな空間に長く居ても……ってあれ? まだ長居したい?』


 見渡す限り本が溢れかえっているこの空間……魂は転生する前に少しでも知識を吸収してから行きたいと話す。


『ほほう、なかなかの心意気だね。良いよ。ただここにあるのはあくまで知識の本だ。魔法が使えるようになったりすることは無いし、転生の衝撃で忘れてしまうこともある……それでも良いかい?』


 魂は勿論と頷く。


『良し、じゃあ心いくまで読むが良いさ』







 近世ヨーロッパの歴史、宝石の種類、成り上がるための方法……色々な知識を蓄えられるだけ蓄えていく。


 そして覚えきったと思ったら神様を呼び、準備が出来たと伝える。


『そうかそうか準備ができたか……じゃあ頑張ってくるんだ!』


 魂に光が満ちていき、そしてその場から消え去った。











 1701年イギリスのドーバーという港町にて1人の少年が産まれることになる。


 彼がこの物語の主人公チャールズ·エドワーズ(通称チャーリー)……幾多の大冒険を行い大航海時代で歴史に名を残すことになる人物である。


 彼の両親はニシンの漁で生計を立てている漁師で、北海に船を出し、ニシンを大量に獲ってきては、港で待っていた漁師の奥さん方が捕まえてきたニシンを薫製に加工して売ることで儲けを出していた。


 勿論赤ん坊であったチャーリーはそんなニシンの香りが漂う母親によって育てられ、5歳になった頃には自身も母親を手伝う為にニシンの薫製作りに参加をするようになった。


 幼いながらも母親の手伝いをするチャーリーの姿に漁師仲間の奥さん方からもチャーリーは真面目で母親思いの良い子として扱われることになる。


 そんなチャーリーは頭も良く、教会で聖書をいち早く暗記すると、牧師を唸らせる様になり、ニシン加工の手伝いで少しだけお小遣いを貰うようになるとコーヒーハウスにて勉強をするようになっていった。


 チャーリーはコーヒーハウスのマスターにニシンの塩漬けを渡す役割に立候補し、自分で手押し車を作ると、マスターの所にニシンの入った樽を渡すようになり、数週間遅れの古くなった新聞を譲り受ける様になり、情報を収集するようになっていった。


 この時代のコーヒーハウスは社交場で、酒は出されず、コーヒー、タバコ、チョコレートや軽食類を出すお店であり、女子禁制のクラブの様な場所であった。


 ちなみに女性や子供も入れるようなティーハウスが出来るのは1717年まで待たなければならない。


 チャーリーは子供ながらにコーヒーハウスにマスターのご厚意で入ることを許されると、様々な人と情報交換を行った。


 直ぐに知識を吸収するチャーリーに大人達も面白がり、色々な事を教えた結果、コーヒーハウスでチャーリーに聞けば、誰がどんな情報を持っているか教えてくれる今のネットの検索エンジンの様な役割をやらせてもらう事が出来た。


 勿論母親の薫製の手伝いも続けているが……。


 そんなコーヒーハウスで情報と読み書きを勉強し、マスターの手伝いをしながら料理もある程度身につけると、12歳にして父親から漁に参加するように言われ、漁に参加するようになった。


 そこで帆船の扱い方を学びながら近海を幾度か航行し、船乗りとしての技術を身に着けていった。







 俺の名前はチャーリー……チャールズ·エドワーズ。


 転生者だ。


 優等生として町で色々な情報を集め、親父達と一緒に漁に出ること数十回……成り上がる為のプランを発動させてもらう。


 まず俺は親父やお袋には悪いが、将来自分の船を持ちたいと思っていたので、それを目指してお金を貯めていた。


 今手元にはコーヒーハウスでのチップや親父やお袋の手伝いで5ポンドを貯めており、中古の中型船を購入するには残り95ポンド必要である。


 ちなみにこの時代のイギリスの通貨は1ポンド=20シリング=240ペンス……1シリング=12ペンスという感じになっており、日雇い労働者が日給10ペンスから20ペンスなので、5ポンドは日雇い労働者の120日分の給料を貯めたことになる。


 しかし、俺は1720年までにある程度の金を貯めておきたいと思っていたので、15歳になった俺はコーヒーハウスに来ていた数回大西洋航海を成功させている歴戦の船長にお願いをして働かせてもらえないか頼み込んだ。


「どうしたチャーリー、お前さんなら生き急ぐ事はねーだろ」


「お願いします。ある程度の纏まった金が必要なんです」


「詳しく聞かせろ」


 俺は船長さんに今まで収集した情報からイギリスはスペインとの戦争が近々発生すると見越し、そうなれば軍として動員されるかもしれず、それによる一時的な貿易の麻痺により経済が沸騰する可能性が高い事をなるべく分かりやすく説明した。


「なるほど、軍に招集されていればそんな稼ぎ時に参加が出来ねぇと言うことだな」


「はい……俺が成り上がるにはこれを上手く活用するしか無いと思ってます」


「面白いじゃねぇか……ちょうど次の航海の水夫が足りて無くてな。下っ端水夫で良ければ参加するか?」


「良いんですか! ありがとうございます!」


「でも正直水夫の給料は安いぞ月1ポンド6シリング程度だがそれでも良いのか?」


「約4ヶ月から6ヶ月で約6ポンド稼げるならありがたいです。最悪見習い扱いかと思っていたので」


「近海だが何十回も漁に出て帆船の操作が出来るような奴を見習いだったら徴発された水夫は皆見習い以下じゃねぇか。ただ漁船とは色々違うから覚悟しておけよ」


「はい!」

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