恋愛禁止な人気モデルの転校生が「君の恋人枠予約していいかな?」と内緒で俺と付き合いたがってくる。

白井ムク@5/20ふたごま5巻発売予定

第一章 人気モデルの正体は、小悪魔?それとも……!?

人気モデルがデートに誘ってきた

 昼休み。

 教室の片隅、窓際の席で、俺は弁当を広げていた。

 いつものように、ただ黙々と箸を動かす。


 窓の外では、風に煽られた木々がさらさらと揺れ、五月の陽射しが校庭のアスファルトを白く照らしている。


 ──穏やかな時間だ。


 こういう、誰の邪魔も入らない静かな昼休みは、俺にとって貴重だった。

 べつに一人が好きってわけじゃないが、騒がしいのは苦手だ。


 誰にも干渉されず、ただ平凡に、淡々と昼食を済ませる。

 それが、俺、廻谷めぐりや晃平こうへいの高校生活。


 ──、そうあるべきだった。




「ねぇ、廻谷くん」




 柔らかな声が、すぐ目の前から降ってきた。

 弁当をつまんでいた箸が、思わず止まる。

 反射的に顔を上げると、そこには、見覚えのある顔があった。


 ——恋ケ瀬こいがせりん……。


 先週、うちのクラスに転校してきたばかりの女子。

 それだけなら特筆すべきことでもない。


 だが、彼女の場合は話が違う。

 日本中の男子高校生が知っている──そう言っても大げさじゃない。事実、雑誌の表紙を飾るたびに売り上げが二〜三万部跳ね上がる、超人気モデルだ。


 そんな彼女が、なぜか俺の真正面に座り、じっとこちらを見つめている。


「……なに?」


 警戒しながら問い返すと、凛はふっと唇の端を上げ、微笑んだ。

 目尻が柔らかく下がり、少しだけ首を傾げる。




「今度デートしてよ♪」




 ──は?


「ブフゥーーーッ!? ゲホッ、ゴホッ……!」


 米粒が気管に入りかけた。慌てて胸を叩きながら咳き込む俺をよそに、凛はのんびりと俺のリアクションを眺めている。


 教室が、ぴたりと静まり返った。

 俺の反応が信じられないのか、凛はほんの少し目を丸くしている。


「……は? デート?」


 ようやく訊き返すと、凛はクスッと笑った。


「えー、そんな驚かなくてもいいじゃん」


 ——いやいや、驚くだろ。


 凛は自分の社会的影響力をご存知ないらしい。


「いや、いやいや……だから、お前、恋愛禁止だろ?」


 ほかの男子たちからのアプローチを、さらりと「事務所のルールだから」と断っていたじゃないか。

 それなのに、どうして俺だけこんな爆弾を投げつけられているのか。


「うん、禁止だよ? でもね——」


 凛は指先で長い髪をくるりと巻き、悪戯っぽく笑った。




「廻谷くんは『特別枠』だから♪」




 俺は、箸を持ったまま固まるしかなかった。


 ——どうしてこうなってしまったのか?

 俺の穏やかな高校生活は、いったいどこへ消えた——

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