【モブ武将】松下嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない!~おこぼれの小大名で終わりたくないので、三英傑を手玉に取ってビッグになろうと思います!
冬華
第1章 遠江・旅立ち編
第1話 嘉兵衛は、木下藤吉郎を手放さない(前編)
天文23年(1554年)4月中旬 遠江国頭蛇寺城 松下嘉兵衛
豊臣秀吉を題材にした映画・ドラマなどでは、秀吉が最初に仕えた主としてわずかに触れられることはあったと記憶しているが、それこそ刑事ドラマの出だしで登場する死体の第一発見者程度の扱いだったような気がする。
つまり、この戦国時代においてはその他大勢いるモブ武将の一人だ。そして、そんな男に……幸か不幸かはわからないが、令和で高校教師だった俺が転生した。
ちなみに前世の死因は……卒業式の夜に教え子の顔を思い出しながら、一人でしんみりと酒を飲んでいたところをその教え子たちに呼び出されて、お礼参りということで背後から金属バットで殴られて、などという何とも報われない、笑えない最後だったが。
「若殿こちらへ。急いで!!」
まあ……俺の事は良いとして話を戻すが、この松下嘉兵衛という男は殺されるほど恨まれていた前世の俺とは真逆で、非常にいい人だったようだ。
身分の低さから同僚にいじめられている秀吉を見かねて、「ここにいては、そなたの才能を台無しにしてしまう」と、尾張までの旅費と退職金を渡して送り出したとかで……後年、秀吉から恩返しにと大名に取り立てられている。石高は確か1万石程度だったけど……。
「おい、猿!盗んだ金を返せ!どこに隠した!」
「そうだ、そうだ!亡き殿のご恩を忘れて、香典に手を伸ばすとは、とんでもない猿だ!!」
「儂は、そんなことはしていません!信じてくだされ!」
「嘘を言え!お前が盗んだところをしっかりこの目で見たんだぞ!!」
……だが、俺は思うのだ。このままだときっと、この藤吉郎は今夜にも我が家を去っていく事になるだろうが、もしここで手放さなければ、俺は温情で与えられた小大名で終わらず、もっとビッグになれるのではないかと。
何しろ俺は、中坊の頃から信〇の野望を色々な大名で何百何千とやり込んでいるのだ。姉小路、一条はもとより、松浦や小田にもチャレンジして天下を獲ったこともある。
それだけに、この時代を勝ち抜くためには人材の確保がいかに大事なことなのか、よくわかっているつもりだ。
「おい、お前ら……なにをしている!」
だから、この時代でビッグになるためにも、ここで藤吉郎を手放すわけにはいかなかった。まず、大体の事情は察したが、何が起こっているのかを聞き取りして、本当に金が盗まれているのかを確認した。
「確かに、記録と現物が一致していないな……」
「そうでしょう!何しろ、この猿が盗んだのですから!!」
しかし、こいつらの言うことを鵜呑みにしたりはしない。取り敢えず、この場にいる者たちを横一列に並ばせて命じた。左から順番に3回ほど跳んでみろと。
「「「「「え……!?」」」」」
「ん、どうした?そんなに難しいことを言った覚えはないが……」
「い、いや……それはそうなのですが……」
この手の事は、前世で赴任した県内最悪最凶の不良校でも経験したからわかっている。自分たちが盗んだくせにその罪を弱い者に擦り付けようとしているのだ。
つまり、消えた永楽銭の束はこいつらの懐に入っており、跳べばジャラジャラと音がするはずだ。それゆえに、いつまで経っても俺の命に従わなかった。
だから、俺はそのうちの一人の胸元に手を突っ込み、隠し持っていた永楽線の束を取り上げた。
「さて、どういいわけする?これはさっきお前が言っていた、藤吉郎が盗んだという父上への香典だよな?」
「あ……い、いえ、そ、そのぉ……」
「他の者も同じだよな?全員、懐に入れた物をここに出せ!」
まあ、出さなければ、罪人として引間城の飯尾様に引き渡すところだが……大人しく従うのならば、自己都合退職で済ませてやろうと考えている。俺は基本的に平和主義者なのだ。しかし……
「お待ちを。某の伯父の従兄の幼馴染の姪は、駿府の偉い人の妾ですぞ。よ、よろしいのですか?そんな某を泥棒扱いしても……」
すんなりと従わない者が約1名居たので、取り敢えず鉄拳制裁を与えて意識を刈り取った。令和の世なら体罰とか暴力教師とか言われて騒がれるところだが、この戦国の世には煩いモンペも文◯砲もない。そう、何も問題はないのだ。
それに……伯父の従兄の幼馴染の姪って、それって他人じゃないか。
「それで、おまえらはどうする?」
そして、他の者は大人しく従ったので、クビを言い渡しただけで済ませて退出させた。さて、こうなると残るは藤吉郎だ。
「ありがとうございます……助けて頂いて……」
「気にするな、藤吉郎。おまえは悪くないんだろ?」
「え、ええ……それはもちろん……」
ただ、今の反応で何となくわかった。こいつもやっぱり盗んでいるな、と。
「……なあ、今なら見逃してやるから、懐の銭をそこに置くことだな」
ダブルスタンダードはよくないけれども、これは俺がビッグになるための必要悪だ。この優秀な人材を手放してはなるまいと、真っ青な顔をして銭を差し出した姿勢に免じて、俺は目を瞑ることにしたのだった。
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