未来国家大日本帝国興亡史

@PATRION

第1話

1941年11月20日 真珠湾沖




アメリカ海軍太平洋艦隊の根幹基地であるここ真珠湾沖には、二つの艦隊からなる連合艦隊が集結していた。


日の丸を甲板に描いた空母が8隻、そして更に遠方にあるもう一つの艦隊には圧倒的な船体をもつ戦艦が一隻・・・日米における争いの勃発が避けられぬ状況となった今、太平洋戦争、それの開幕となる奇襲作戦が行われようとしていた。


総旗艦旗を揚げるのは遠方の戦艦である。


戦艦の名は大和、正規空母よりも遥かに大きな船体をしている超巨大艦である。


大和の司令部には山本五十六を始めとした海軍上層部が緊張した表情で立っている。




「第一次攻撃隊、突入開始予定時刻まであと5分。」




士官の報告に司令部にいる要員はただ頷くだけだった。




「長官、本当にこの作戦は成功するのでしょうか。」




伊藤整一少将の問いに、山本はただ頷くばかりである。




「本来の世界では真珠湾攻撃は12月8日に行われたそうだが、その作戦は、勝利しつつも失敗したらしい。」




「南雲機動艦隊は敵戦艦五隻を沈め、三隻に損害を与えた。空軍基地は破壊され、戦果だけを見れば疑いの余地なく日本軍の勝利だった・・・。」




そこまで伊藤がつぶやき、山本がそうだ、と続ける。




「航空母艦は既に出払っており、沈めることが出来なかったその二隻によって南雲機動部隊の赤城、加賀、飛龍、蒼龍は沈められた。それが本当ならば本来の我々はこの真珠湾攻撃の時点で負けていたことになる。だからこそ私は無理を承知でここまでに・・・史実、以上の機動部隊を完成させた。」




山本を始めとした大日本帝国陸海軍の限られた上層部のみが知る秘密、それは突如として現れた建築物についてであった。


1939年12月、東京市千代田区、政治の心臓部に突如として出現した巨大建築物は、恐らく内外部の情報から「国立国会図書館」と呼ばれる建物であった。


出現直後からその建物は憲兵隊による封鎖が行われ、一般市民へは秘匿とされた。


現在は厳重な警備の下、認可証を持つ者だけが内部への進入を許されている。




そんな国立国会図書館だが、調べた結果、内部に人間の居る様子はなく、書類は最大で2020年までの書物が貯蔵されているようであった。


内部にある謎の機械の多くは機能しておらず、電気を入力しても反応はなかった。




そして陸海軍上層部が合同で調査を実施し、日本の歴史について記す本を見つけた結果、驚く事実を記す書類の数々へと到達してしまった。




日中戦争での失敗・真珠湾攻撃の真実・ミッドウェー海戦での大敗・サイパン島、硫黄島陥落・東京大空襲・戦艦大和の撃沈・広島、長崎への新型爆弾の投下・無条件降伏など、凡そそれは日本軍に身を置く者たちにとって快いものではなかった。


陸軍上層部は、反戦派による陰謀であると騒ぐものもいた。


だがほとんどの者はそうではなかった、建造が開始され全てが厳重に秘匿されていた戦艦大和の設計についてのこと細かい考察がされた書類や山本五十六や米内光政による反対米開戦派の心情、そして日本が戦争への突き進んだ理由など全てが的確に記された大量の蔵書はどう考えても未来人による記録であるとしか思えなかったからである。




だが、結果を知ることが出来たとしても、知った時点ではもうすでに遅すぎた。


最早日中戦争は引き際を失い、世論は対米開戦を信じて疑わないし、大日本帝国は軍事政権の皮を被っているものの、その力は世論を動かすことが出来ないほどに弱かった。




「二年という月日はあの資料を手にしたとしても準備するには短すぎた。だがそれでも希望は生まれている。恐らくこの艦隊だけだとしても、1、2年ほど時代を先取りできたかもしれない。陸軍においても対中戦線はようやく右肩上がりだ。」




陸海軍上層部はこの情報をなんとしても守り抜くため、空技廠を改め財閥や軍需企業幹部と合同で陸海軍技術廠、通称軍技廠を設立した。


合同での設立は敗戦の原因の一つに陸海軍の協調不足があったという常識的な理由を叩きつけられ、米内光政海軍大臣や畑俊六陸軍大臣を始めとした各軍上層部が協力し合ったという背景がある。


この軍技廠には今までの兵器開発を担った各企業の設計主要陣の多くも招聘され、ここで書物から得た情報を下に新兵器の開発に務め、各企業へ製造や改良を委託することを基本方針とした。


だが書物による未来技術の先取りに成功したとて、それを実現するための下地がこの大日本帝国には存在していなかった。


未来では電子制御やコンピューターと呼ばれる存在が兵器のほぼすべてに採用されているようだが、日本ではそのようなものを製作できる技術は存在せず、そもそも書物に書かれている情報を理解できる者もいなかった。


アメリカやドイツの大出力エンジン、水冷エンジン技術もまた同じく、設計図が出来てもそれを量産するまでに必要な工程があまりにも多く、新型エンジンの設計よりも試作機の製造に時間がかかるほどであった。


関係者たちは、未来を先取り出来る圧倒的な有利を感じる反面、それほどまでに他国との工業力の差を痛感したのであった。




そのような状況にあっても海軍においては、山本五十六主導の下に機動艦隊強化に務めていた。


零式艦上戦闘機の早期実用化に加え、アメリカが量産したSBDドーントレスと比較した際の九九式艦上爆撃機の性能不足を痛感し、軍技廠にて金星40型エンジンを、金星60型とされる資料を参考に最高出力1,400馬力を発揮する金星51型空冷エンジンの設計に成功させそれを搭載する急降下爆撃機を設計した。


それはドイツのJu87の機体構造を参考に500kg爆弾標準搭載、軽量化、航続距離延長を図った機体を新たに九九式艦上爆撃機として実用化し、量産に成功している。


技術的な問題とは変わり、空母の重要性を再認識した海軍は財政を圧迫させてまで予算を計上させ、翔鶴型航空母艦の建造を二隻増やし、対空兵器などが未艤装のままだが、計四隻の翔鶴型を就役させることに成功し、空母保有数は世界一位、機動艦隊所属の航空隊も超が付くほどの過酷な訓練で練度は世界最強と言っても過言ではないレベルに到達していた。


大和型は大和の建造を加速させ、途中で計画を変更、副砲を撤去し、予め対空艤装強化改装後の姿で就役した。




そしてこの真珠湾攻撃へとつながる。


計八隻の正規空母からなる攻撃隊は文字通り史上最大のものである。


249機の第一次攻撃隊が編隊を構成し奇襲、そしてその後の攻撃隊が必要なことは明白なため、後続は第二次攻撃隊としつつも第一次攻撃隊のような大部隊は編成せず、第一次攻撃隊をいったん発艦させた後、各空母から発艦した隊から小隊規模で随時突入する作戦となっていた。




「我々は世界で唯一の未来を知る国家だ。これほどの有利があるのならば、なんとか勝つこともできるかもしれない。歴史を変えよう。」




そして大和艦橋にスピーカーから音声が流れる。




「連合艦隊旗艦大和へ。こちら南雲機動艦隊南雲忠一、第一次攻撃隊奇襲成功。これより突入開始するとのことです。」




モールス信号ではなく、リアルタイムでの音声通信、旗艦機能を備える艦は通信士との伝達のタイムラグをなくすためスピーカー直結の電話装置を試作し、既に大和と赤城に搭載している。




「淵田くんなら、やってくれよう。」




山本は第一次攻撃隊の総隊長である淵田美津雄へ信頼を寄せていた。


隣の伊藤もまた、相槌をうつ。




「南方では小沢さんや近藤さんが今頃・・・あの人たちでしたら大丈夫でしょうが。」




「ああ。」




かくして、ここに太平洋戦争が勃発する。


帝国の未来はどっちであろうか。







真珠湾攻撃隊構成




南雲機動部隊 旗艦 赤城


司令官  南雲忠一中将


参謀長  草鹿龍之介少将


航空参謀 源田実中佐




第一航空戦隊 南雲忠一直率


空母 赤城(赤城型)・加賀(加賀型)




第二航空戦隊 指揮官 山口多聞少将


空母 蒼龍(蒼龍型)・飛龍(飛龍型)




第五航空戦隊 指揮官 原忠一少将


空母 翔鶴・瑞鶴(翔鶴型)




第六航空戦隊 指揮官 桑原虎雄少将


空母 慶鶴・寧鶴(翔鶴型)




戦艦  比叡・霧島(金剛型)


重巡  利根・筑摩(利根型)


軽巡  阿武隈(長良型)


駆逐艦 陽炎型9隻




第一次攻撃隊


零式艦上戦闘機     54機


97式艦上攻撃機22型  144機


99式艦上爆撃機     51機




後続攻撃隊


零式艦上戦闘機     54機


97式艦上攻撃機22型  54機


99式艦上爆撃機     131機




計488機




山本艦隊 旗艦 大和


司令官 山本五十六大将


参謀長 伊藤誠一少将




戦艦  大和(大和型)・長門・陸奥(長門型)


重巡  古鷹・加古


駆逐艦 夕雲型4隻




補給艦隊


駆逐艦 陽炎型4隻


給糧艦 間宮


給油艦 8隻

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